人間の本性には「動物の血」があると筆者はいう。人間が生物界の頂点にいるのは「理性の血」を手にしたからではあるが、「動物の血」の方が強い。だからといって、「動物の血」に戻るのは自然で仕方ないことと開き直るのではなく、「動物の血」がもたらす醜さを身をもって感じ、不条理をいかに思い留まるか、そこにこそ人間として理性を磨く鍵がある。
筆者は伊藤忠商事の元会長で中国大使も務めた。「動物の血」と「理性の血」がせめぎ合う修羅場を多く潜り抜けてきた。そんな筆者の人生を支えてきた数多くの人生訓が、実際のエピソードとともに提示され解き明かされていく。
「動物の血」が突き動かす、刹那的で自己中心的な保身に対して、「理性の血」を持って、長期的に皆が幸せになるような形で決着させていくか、それが著者の人生だったように思われる。伊藤忠時代のエピソードはヘビーなものもあり、著者自身が若い頃から修練を積み重ねてこられたからこそ、思いを貫けたのだろうと感服させられる。
傘寿を迎える著者だが、取り上げられているエピソードには新しいものも多い。ひとつ1つのエピソードは短くまとまっているので、面白そうなところをつまみ食いしてみても良いだろう。
サラリーマンから会長にまで1つの会社で上り詰めた著者だが、我々のような普通の人間にも共感できる迷いがたくさんあったことがわかる。類書と比べ、あまり説教臭くならず、さらっとまとめられているのは、筆者の人柄だろう。迷った時には読み返したい、座右の書としての価値のある一冊である。
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