日本でキャリアといえば、まず名前が上がる本の1つ。2002年の出版と、もう20年も前のものだが、今でも通用する内容で色褪せない。
本書の完成には3年かかったそうだが、キャリアに関連のある分野を幅広く概観し、エクササイズと称したコラムが随所に用意されるなど、新書でありながら、ずっしりとボリュームのある内容だ。
本書の分野は、著者によると「キャリア・トランジション論」である。トランジションは転機と訳されることが多いが、本書では「節目」という表現も用いられている。
まず、キャリアとは何か。シャインの3つの問い、自己イメージのチェックのエクササイズからスタートする。何が得意か、何がやりたいのか、何をやっているときに役立っていると実感できるのか。
節目では、自己イメージなど、これまでの歩みを意味づけすることで、キャリア・デザインを駆動する問いとして活用することになる。
これまでのような、組織の中で安定したキャリアを歩むのが当たり前であった時代から、「バウンダリーレス(境界のない)キャリア」(マイケル・アーサー)や、「変幻自在のキャリア」(ダグラス・ホール)が注目されるようになってきた。
流されるだけのキャリア「キャリア・ドリフト」であっても、セレンディピティ(思わぬ掘り出し物)に出会う可能性を肯定しつつ、本書では「キャリア・デザイン」をすることを勧める。
中でも、著者は節目(トランジション)でこそ、「キャリア・デザイン」をすべきだという。ブリッジズやニコルソンのトランジション・モデルを引用しつつ、節目をうまく設計することで、一皮むけるような経験を探求していくことを勧めている。
大きな節目は、25歳ごろと45歳ごろにあるとされており、それに対応して、第4章では就職時と入社直後、第5章では生涯発達がテーマとして、詳細に取り上げられている。
最後は、クランボルツの「計画された偶然」を参照しつつ、「キャリア・ドリフト」も楽しむことを提案し、本書は終わる。
ジョン・コルトレーンの「トランジション」に寄り添われて、キャリア理論の大家たちの言葉が次々に引用される。理論を学ぶ本としても充実した良書だが、日本の現在のキャリア研究分野の創世記としても味わい深い。
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