【書評】6訂版 キャリアコンサルティング理論と実際 専門家としてのアイデンティティを求めて (著:木村 周、下村 英雄)

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キャリアコンサルティングを学ぶ方が、ほぼ全員持っていると思われる「キャリアコンサルティング理論と実際」の6訂版。今回は大きな改訂であった、とまえがきにも記載がある通り、ざっと目を通してみても印象が大きく異なる。すでに旧版をお持ちの方にも、一度目を通していただきたい。章立ても大きく変更されている。章立て変更の理由は著者によって複数あげられているが、読者の立場からも、通して読んだ際に(比較的)スムーズに読み進められるようになったと感じる。

これまでのような辞書的な利用においても、その価値は失われていない。法律・歴史・理論に関して大幅な加筆がされているのはもちろん、産業・組織心理学やセルフキャリアドック、ストレスチェックなど、企業内でキャリアコンサルティングに取り組む方々に関係の深い分野の記載量も増えた。

なかでも、多文化・社会正義のキャリアコンサルティングについて、一章設けられているのは注目だ。下村先生の専門分野であり、専門的な入門書も執筆されているが、そのために一冊購入するのは、キャリアコンサルティングの分野に足を踏み入れたばかりの初学者には少々ハードルが高い。

参考として簡単に紹介すると、キャリアコンサルティングは個人の尊重が軸となっているが、特定の文化・階層(例えば白人男性中流階級)を対象とした理論となっているのではないかという批判が生まれてきた。多文化、非主流派層をも対象とし、社会正義との関連も視野に入れた理論が、この「多文化・社会正義のキャリアコンサルティング」という概念である。

以上のように本書は、5訂版を持っている方も、新たに買い足して学ぶ価値のある一冊。ご自身の向上はもちろん、後学の指導をされる方にも、入手していただくことをお勧めしたい。

また、旧版までの著者の記載は木村周先生おひとりであったが、この6訂版から、木村先生の意思で、改訂作業は下村先生に一任し引き継がれていたとのこと。2021年3月、完成を待たずに木村先生は逝去されたが、本書は共著での出版となっている。

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