【書評】心を癒すふれあいの心理学

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リレーションシップ(ふれあい)について、さまざまな角度から考察した本書。1987年に出版された「心とこころのふれあうとき」を改題・再編集し、加筆したもの。灰谷健次郎の「兎の眼」から児童の詩を引用し、このような詩が生まれてくるような、教師と児童のリレーションシップを1つの理想として、さまざま人間関係について考察する。

パーソナリティ、コンプレックスなど、今では一般的にも知られた心理用語とリレーションシップとの関連からはじまり、問題行動や精神障害の話題を経て、著者の考察は、カウンセリングと宗教の違いにまで及んでいく。

最終章では、「カウンセリングの本質は何か」として、7つの問いを掲げ、この7つの答えの総体が心理療法理論・カウンセリング理論である、と述べる。その中でも中心的な課題として、「なおるとは何か」をあげ、「なおる」とは現実に踏みとどまれるようになること、「無視していた自分」を受け入れ、「いま、ここにいる自分」を他者にぶつけること、だとしている。

客観的事実はひとつだが、「現実」は人の数だけあり、クライアントの「現実」と客観的事実の折り合いをつけていくことが、カウンセラーの役割だ、とも述べる。実践に役に立つのでなければ意味がない、そう断言する著者は、ロジャーズ理論の単純さや、精神分析を大衆化した交流分析の功績を讃える。カウンセラーは万能ではない、さらには、カウンセラーはクライアントに「捨てられるべき存在」だとまで言い切るのだ。

最後に、本書はサティの理論に基づいている。またそのエッセンスが、著者のカウンセリング理論のかなめとして、構成的グループエンカウンターの基本原理として、そして論理療法の帰結(達成目標)として開花しているとのこと。多くの理論を学び、軸を見失いかけている方にとって、自身を振り返るための一助になるかもしれない、そんな一冊である。

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