【書評】「働くこと」を思考する(著:久米功一)

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労働者に関わるさまざまな問題を題材に、経済学の手法で解き明かしていく。キャリアコンサルタントの普段の業務では、さまざまな相談に対して、個別の事情を傾聴し、寄り添いながら進めていくことが多い。それもあって、相談される課題が個別・限定的なのか、多くの人に共通なのか、あえて意識しないこともある。本書では、政府統計や民間で行われた調査を扱い、マクロな視点での問題を浮き彫りにしていく。そのことで、より多くの人が直面している課題がどの分野なのか、マクロな判断軸を知ることができる。

労働分野で注目されている課題ごとに章立てされ、その数は全部で15章。近年、注目度が増す高齢者雇用やL G B T、幸福度、知的機械(いわゆるA I)の労働市場へのインパクトなどについても、それぞれ章立てをして検証されている。結婚・出産・育児との関わり、失業と貧困など、日常的に向き合うことの多い課題も取り上げられ、改めてマクロな視点で捉え直すことができる。

各章の最後には演習問題もついており、気になる分野について、さらに理解を深めることができる。演習問題は、単なる統計上の順位での考察から漏れがちな、実際の状況を意識した問題提起がなされている。簡単に答えが出るものばかりでなく、丁寧な引用文献リストとあわせて、日々の課題に立脚した問題意識を研ぎ澄ますためにも活用できそうだ。

統計やそれに伴う報告書は情報量が多く、普段では、目を通す時間を確保することも難しいだろう。そんな方にこそ本書を手に取り、興味のあるトピックだけでも目を通してもらいたい。今日対応した一人の相談は、多くの人にも共通の課題だったということが、見えてくるかもしれない。組織や社会への改善提案の元ネタとしても、重要な一冊となるだろう。

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