【書評】何者(著:朝井リョウ)

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就職活動を控えた学生5人。就活に向けての姿勢はそれぞれだ。留学やバンド活動など、就活の波に少し乗り遅れた彼ら。学生らしいこだわりを捨てきれないもの、これまでの人生をかけた譲れないものを優先するもの、それぞれの選択が少しずつ明らかになっていく。

主人公の一人称で進んでいくこの作品は、この形式だからこそ得られる、主人公になりきって感じ、共感できるのが最大の魅力だ。少し斜に構えた主人公は、この小説を好んで手に取ってしまう私たちと生写しだ。そして、主人公に訪れる終盤の出来事は、読者にとっても最大の驚きとなる。

本作品では、登場人物同士の会話に加えて、S N S(Twitterと思われる)上のつぶやきを要所要所に挟みながら、彼らの心理に迫っていく。対面での会話だけでは本音は話せない。S N S上のつぶやきは、リアルの会話では言えなかった本音。では、S N S に全ての本音があるのか。幾重にも重なる彼らの「本音らしきもの」が、本作品の本当の主人公だ。

本当の自分とは何なのか、自分の本音とはどれなのか、企業ウケがいいことは良いことなのか、最後まで自分を貫くべきなのか。自分とは他人との関係性の中にしかいない、そう割り切れるのか。青春時代の青臭さが、就活という、ある種の極限状況の中で、際立ってくる様は、恐ろしさすら感じる。

本作品には、殺人や浮気などの陰惨で重々しい出来事は起こらない。付き合ったり別れたりはしているが、どちらかといえば、清々しいやりとりだ。それだけに、就活に関わる場面での彼らの心の動きの複雑さや哀しみが、胸をえぐる。

今、就職活動をしている学生に、本書を勧められるだろうか。正直なところ、ためらってしまう。あくまで小説であって、リアルではない。学生には、全ての就職活動を終えたあと、気持ち的に少し距離を置いてから、本書に向き合ってもらえればと思う。それでも、最後のエピソードは胸を打つだろう。

就活を経験していない大人には、今すぐに本作品を読んでみてほしい。学生が、テレビや雑誌に出てくるキラキラした生活を送っている裏で、キラキラでは終わらないさまざまなことを感じている様が伝わってくる。本音とは結局何なのか、その絶望が人を大人にさせるのかもしれない。

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