【書評】生涯発達の心理学(著:高橋恵子、波多野誼余夫)

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中高年になっても、能力を伸ばすことができる。その考え方は現代では一般的になっただろうか。

一昔前までは、発達というのは青年になるまでのことであり、それ以降は下降していくと考えられていた。

子供のみが学び発達することができる、という、もしかすると今でも素朴に信じられているかもしれない考えについて、研究成果を元に丁寧に反論し、中高年の発達に希望を持たせてくれる。

若年期は、知力面・体力面双方が成長し、充実していくのに対して、中高年では異なる面がある。

中高年では、体力面の発達は望めず、いわゆるハード面の成長については期待できない。

ただ中高年では、自らこれと決めた分野、他のことを犠牲にしてもやりたい、これをやっている自分が好きだ、という分野において、何歳になっても能力が高まり、深まっていく。

決めた分野であれば、それまでの経験の有無に関わらず、発達が続いていくのである。

また一般に、中高年の有能さに期待されるのは、人生をよりよく生きる上での「知恵」であろう。

問題の表面にとらわれず本質をつかみ、短期的な問題と長期的な問題を分け、中心となる要素とイデオロギーやレトリックを区別し、重要な諸側面や選択肢、解決法を識別しうる。

様々な局面の経験と、現実的な利害関係にしばられることが少ないことが、こういった「知恵」の源泉と考えられる。

また、意欲も重要である。働く場から遠ざけられることで、有能さを発揮する機会が失われ、意欲とともに有能さが低下することがある。安心して老いられることも重要である。

最も得意とし満足している側面に焦点を当てることで、中高年においても発達は継続することが観察される。また、有能さを発揮できる場所があることも重要である。

最後に、有能さがなくなり、すっかり依存的な存在になったとしても、それでも人は価値がある。それを我々の人間観の中にしっかり入れておく必要がある、と筆者は述べる。

老いて有能さをほとんど残していない状態になったとしても、本人や家族の責任ではなく、人間という種は、だれでもがそのようになる可能性を持つ「存在」である、とし、「人間の尊厳」について宣言し、決心することを求める。

エリクソンによれば、老年期の人間が最後の力で獲得する「英知」とは、死を目前にしての、人生そのものに対する超然とした関心であるとしている。

死を現実的に視野に入れることで、更なる精神の発達があるということであろう。

何歳になっても、発達が続くということについて、肯定的に勇気づけてくれる一冊である。

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